原原典 平家物語 の魅力 平凡の友



原典 平家物語 の魅力

般若心経(はんにゃしんぎょう)

いま「平家納経」の一セットとして伝来するが、原初のものが散佚したため、神庫(じんこ)に伝存したこの一巻を代替(だいたい)補入したもの。紺紙(こんし)金泥(こんでい)の写経で、巻末に「仁安二年二月廿三日 太政大臣従一位平朝臣清盛書写之」と署名があるので、清盛(50歳)の自筆である。二月十一日、武門の出自(しゅつじ)ながら清盛は前代未聞、位(くらい)人臣(じんしん)を極めた。その直後の写経で、伊都岐島社に奉賽(ほうさい)(御礼として捧げる)したもの。二十三日に書き終わると二十五日には京都を出発、船路で参詣した。帰洛は四月六日。じつに四十一日もの長旅(ながたび)であった。太政大臣の長期離洛(りらく)は、公卿の顰蹙(ひんしゅく)を買った。清盛が当代稀有(けう)の能書であったことが、この写経によって十二分にうかがわれる。

般若心経

般若心経


阿弥陀経(あみだきょう)

如来が宝塔の説法(せっぽう)の座から下りると、聴聞(ちょうもん)に集(つど)う幾千万億の菩薩(ぼさつ)たちの頭をなでて、減後(めつご)における『法華経』の流布(るふ)を委嘱(いしょく)した。「神力品(じんりきほん)」に連続する。元の表紙・見返しは早くに失われたらしく、福島正則による補修時に、俵屋宗達(たわらやそうたつ)の絵筆に改められた。
「平家納経」の中には珍しく、紺紙金泥経(こんしこんでいきょう)の一巻。本紙の天地に蓮弁唐草文(れんべんからくさもん)の装飾画を連ねている。
総裏(そううら)は金砂子(きんすなご)。
経文(きょうもん)を書くための界(かい)(罫(けい))が、金銀の二重に画(かく)されているのも異例で、敬虔(けいけん)な祈りを思う。肉太(にくぶと)の楷書(かいしょ)を謹厳に運ぶ金泥文字。
ゆるやかな運筆の中に能書の才(ざえ)が光る。しかるべき能書(のうしょ)の公卿の代筆か。


観普賢経(かんふげんきょう)

『法華経』の最後の「普賢菩薩勧発品第二十八」を受ける経典として、天台大師智(ちぎ)〈538-597〉が『法華経』の結経(けっきょう)として以来、開経(かいきょう)の『無量義経』と一対(いっつい)の具経(ぐきょう)とされている。
表紙は銀地に七宝(しっぽう)つなぎ文様(もんよう)を空摺(からず)りにして、その上に蓮池(はすいけ)を描く。見返し絵は、右手に剣(けん)、左手に水瓶(すいびょう)(経文では軍持(ぐんじ)という)を持った、襲装束(かさねしょうぞく)を着した若い女房の姿を描く。これは『法華経』を守護する十(じゅう)羅刹女(らせつにょ)の中の「黒歯(こくし)」で女性信仰の波をうけて、女房姿に表わして讃嘆(さんだん)したもの。「涌出品(ゆじゅつほん)」に同図があるが、描写様式が異なるので、別の絵師の筆。彼此(ひし)ともに大和絵(やまとえ)の研究史上、注目すべき作品である。

観普賢経

観普賢経


勧発品(かんぼつほん)

『法華経』の中には七つの譬喩譚(ひゆたん)(たとえ話)がある。これはその一つ。「良医の譬喩」で、ある事実を仮定して、それに基づき教えを説く形式をとる。良医が国外旅行した間に、子供が毒薬を飲んだ。帰って来た父が良薬を与えたが、本心を失った子は服用しない。父はふたたび旅に出て、「父は死んだ」と伝えさせる。悲しみの中に本心を戻した子が、父の残した薬を飲み毒は消えた。その時、父が帰国したという説話。薬の効能(くのう)を天女(てんにょ)の慈悲にもまがえたのか。図様(ずよう)の説明ができない。しかし、この説話(せつわ)以外に、この品(ほん)の絵画化の場面はないのだが。

勧発品

勧発品


厳王品(ごんのうほん)

巻末に「長寛二年六月二日 右兵衛尉平重康(しげやす)」の署名がある。が、じつはこれは平清盛の筆。
この年の四月十日、関白藤原基実(もとざね)(22歳)の新妻(にいづま)となったばかりの愛娘(まなむすめ)・平盛子(もりこ)(9歳)の護持(ごじ)のため、重康の名字(みょうじ)を借りて結線に加えたもの。
まず、表紙。大きな月が山の端に沈みゆく。樹(き)の幹(みき)に沿って、「そ能本登長夜」(そのほど長夜(じょうや))と土坡(どは)に「能」(の)の文字が散らされている。これは、後白河法皇編集の『梁塵秘抄(りょうじんひしょう)』の中の今様(いまよう)を葦手(あしで)で図様化したもの。
本紙の末尾近くにも、「五百」「彼方(あなた)」「仏(ほとけ)」の点在文字で、同じく同集の今様を表わす。
見返し絵は「平家納経」の白眉(はくび)。経句に見える「盲亀浮木(もうきふぼく)」の説話、瓶(かめ)で「亀」、経巻に「浮木(うきぎ)」を表わして葦手で描く。
これも同集の今様に該当(がいとう)する。
都合三首。王朝貴族の美意識と耽美(たんび)性を示す。

厳王品

厳王品


陀羅尼品(だらにほん)

この品は、薬王菩薩(やくおうぼさつ)・毘沙門天王(びしゃもんてんおう)・鬼子母神(きしもじん)・十羅刹女(じゅうらせつにょ)らがそれぞれに陀羅尼(だらに)(仏前で唱える呪文(じゅもん))を説いて、『法華経』を受持(じゅじ)(捧げて信仰する)する人々を守護することを説く。見返し絵は、前机(まえづくえ)を据(す)えて、『法華経』を奉安(ほうあん)してそれを読誦(どくじゅ)し、あるいは敬いて解説(げせつ)を聴聞(ちょうもん)する人々。
それを取り囲んで菩薩や天女(てんにょ)らが守護する様子を描く。大和絵(やまとえ)の絵師が、唐絵(からえ)の画風でつくっている。銀泥を刷(は)いた地紙(じがみ)の上に、岩石や土坡(どは)、松林などの絵具(えのぐ)が美しい。群青(ぐんじょう)の雲を距てて、遥か彼方に遠望の山頂は、釈迦入山(にゅうせん)の霊鷲山(りょうじゅせん)(ヒラヤマ山脈)であろうか。

陀羅尼品

陀羅尼品


観音品(かんのんほん)

まず、表紙。二人の男が縛(しば)られて、頭巾(ずきん)をかぶり股立(ももだ)ちをとる老人に鞭(むち)で追い立てられる。この経文の偈(げ)「手足に※械(てかせあしかせ)を被(こう)むらんに、彼(か)の観音力(かんのんりき)を念ぜば釈然(とけさり)て解脱(まぬが)るることを得ん」の絵画化。見返しは、『大唐西域記(だいとうさいいきき)』(巻第十一)の僧伽羅国(そうきゃらこく)(セイロン畠)の説話(せつわ)による。これは、『宇治拾遺(しゅうい)物語』(九一・僧伽多羅国(そうきゃたらこく)に行く事)にも収められる。インドの貿易商人・僧伽羅(そうきゃら)が難船して羅刹国(らせつこく)(セイロン島)に漂着。羅刹女(らせつにょ)を妻とした。が、のちその正体(しょうたい)を知り逃(のが)れる。v 女は悪鬼となり追う。観音力(かんのんりき)を念ずると海中から白馬が現われ、それに相乗りして助かった。
日本に根付いた「物語」の説話の絵画化である。
※木偏に丑


妙音品(みょうおんほん)

この品ほ、三千四身(じん)に姿を変えて『法華経』を説く妙音菩薩(ぼさつ)が登場して、『法華経』の説法がいかに重大な意義をもつものであるかを説く。見返し絵は、経句の「時に妙音菩薩は、彼の固まり没(もっ)して、八方四千(しせん)の菩薩と倶共(とも)に、発(あらわ)れ来(きた)れり。経(へ)たる所の諸(もろもろ)の国は六種に震勤し、普悉く七宝の蓮華を雨(ふ)らし、百子の天の楽ほ鼓(う)たぎるに自(おのずか)ら鳴れり」の「八万四千の菩薩」の図様化。銀泥(ぎんでい)を刷(は)き虚空(こくう)にまがえる。雲中(胡粉描きの雲)、蓮台(れんだい)に坐す仏(釈迦如来)が来迎(らいごう)する。
菩薩形(ぎょう)を如来形に措き違えたのは、絵師の過誤(かご)か。

妙音品

妙音品


薬王品(やくおうほん)

巻末に「左衛門少尉平盛信(もりのぶ)」の署名(しょめい)を加えている。点画(てんかく)が狭小(きょうしょう)で、ひ弱く女性的である。が、平家一門の大番頭、左衛門少尉盛国の一男かと推定される(「平氏系図」には見えない)。見返し絵が華麗(かれい)を極める。西方(さいほう)、阿弥陀仏の光明に照らされる若い女性(にょしょう)。肩に掛帯(かけおび)を結び、脇息(きょうそく)に倚りかかって、経を読む。小さな経の中に見える同じ文字が、画面に点在する。葦手(あしで)(十世紀末、書体の一種。文字遊戯)である。
「もし」「コノ」「女人(にょにん)」(女の絵姿)「アリテ」(以上、蓮弁の輪郭文字)「此(ここ)」「命終(みょうじゅう)」「即(すなわち)」「安楽せかい」(蓮葉の輪郭)「生」(蓮台上)という文字をつなぎ、経句(経の教えにしたがえば、命終の時に安楽世界に生まれる)の一節。極楽浄土さながらの美しい画面。

薬王品

薬王品


※累品(ぞくるいほん)

如来が宝塔の説法(せっぽう)の座から下りると、聴聞(ちょうもん)に集(つど)う幾千万億の菩薩(ぼさつ)たちの頭をなでて、減後(めつご)における『法華経』の流布(るふ)を委嘱(いしょく)した。「神力品(じんりきほん)」に連続する。
元の表紙・見返しは早くに失われたらしく、福島正則による補修時に、俵屋宗達(たわらやそうたつ)の絵筆に改められた。
「平家納経」の中には珍しく、紺紙金泥経(こんしこんでいきょう)の一巻。本紙の天地に蓮弁唐草文(れんべんからくさもん)の装飾画を連ねている。
総裏(そううら)は金砂子(きんすなご)。
経文(きょうもん)を書くための界(かい)(罫(けい))が、金銀の二重に画(かく)されているのも異例で、敬虔(けいけん)な祈りを思う。肉太(にくぶと)の楷書(かいしょ)を謹厳に運ぶ金泥文字。
ゆるやかな運筆の中に能書の才(ざえ)が光る。しかるべき能書(のうしょ)の公卿の代筆か。
※口偏に屬


神力品(じんりきほん)

さきの「宝塔品」・「涌出品(ゆじゅつほん)」をうけて、大地の割れ目から出現した幾千万億(おく)の菩薩(ぼさつ)たちの前で、釈迦如来が神通力(じんづうりき)の実現を演出する。
その広長吉(こうちょうぜつ)(仏の三十二相の一。舌が広く長く柔軟で、伸ばすと顔の上、 髪の生え際にまで達す)は梵天(ぼんてん)国に至り、身より無量(むりょう)の光を放つ、と。
見返し絵は、静寂(せいじゃく)の山中庵主(あんしつ)に独居(ひとりい)の老僧が声高(こわだか)に『法華経』を読誦(どくじゅ)している。脇息(きょうそく)に肘枕(ひじまくら)の僧は、ふと如来の広長舌の吉相(きっそう)に想い耽(ふけ)る。 如来の広長舌とおのが短舌(たんぜつ)に思い及ぶ。
我に返り読経(どきょう)。静と動の世界の巧みな一瞬を見る


不軽品(ふきょうほん)

この品は、『法華経』の功徳(くどく)を讃嘆(さんだん)する。経文(きょうもん)に述べる常不(じょうふ)軽菩薩(きょうぼさつ)が、自分に対して悪口(あっこう)雑言(ぞうごん)をさせることにより仏縁(ぶつえん)を結ばせ、それによりその人に成仏のチャンスを与えた。「平家納経」の経飾りにおいて、一群に比してやや簡素である。が、かえって典雅の趣(おもむき)をたたえる。
表紙・見返しともに、赤地の染紙(そめがみ)に統一、紙面を虚空(こくう)に見立てて、金銀の雲を浮游(ふゆう)させる。まわりに、同じく金銀の大中小の切箔(きりはく)・砂子(すなご)をまばらに撒(ま)く。さながら龍華(りゅうげ)の暁(あかつき)(釈迦入滅後、五十六億七千万年の後に弥勒(みろく)菩薩が出世して、衆生を救う)の天空にまがえるものか。

薬王品

薬王品


法師功徳品(ほっしくどくほん)

巻末に「長寛二年九月一日 従二位行権中納言平朝臣清盛」と自筆の奥書を加える。 結緑の最終結成を告げるものか。
ほどなく清盛一門は安芸国の伊都岐島社に出航、施入(せにゅう)供養を遂げた。
この品(ほん)は『法華経』を信奉する人の前に普賢菩薩が影向(ようごう)(現れる)すると説く。その絵画化。
ところどころに、仮名(かな)や漢字の文字様(もじよう)が見える。
葦手(あしで)で一首の歌を成す。亀田孜(つとむ)博士は「静(しず)かに山林(さんりん)独り居て、修道行者(ぎょうじゃ)の前にこそ、普賢菩薩は見え給え」の今様(いまよう)(亀田の創案)を復原(ふくげん)する(『平家納経図録』奈良帝室博物館・1940年6月刊)。卓見である


随喜功徳品(ずいきくどくほん)

仏の寿命(じゅみょう)が永遠であることを説いた『法華経』に、心から帰依(きえ)した時の福徳は広大無辺(こうだいむへん)であると説くのが、この経である。表紙・見返しから本紙の表裏ともに、同一の金銀の切箔(きりはく)・砂子(すなご)の荘厳(しょうごん)。見返しは花開く蓮池(はすいけ)。 極楽浄土の象徴である。経文の書が、ひときわ美しい。優雅で伸びやかな書品(しょひん)(上品な書風)は、「平家納経」に結緑した人々の羨望(せんぼう)となったのか、「安楽行品(あんらくぎょうほん)」・「涌出品(ゆじゅつほん)」・「厳重品(ごんのうほん)」とこの「随喜功徳品」、四巻ながらともにこの人の手。むろん、当時の能書公卿(のうしょくげ)が代筆を求められて筆を運んだもの。


分別功徳品(ふんべつくどくほん)

「平家納経」の中でも特に華麗な一巻。
この結線経(けちえんきょう)の奉行(ぶぎょう)をつとめた左衛門少尉平盛国(さえもんのしょうじょうもりくに)(52歳)の分担である。
表紙・見返し・本紙の表裏をすべて紫色に染めた地紙に、金の切箔(きりはく)・砂子(すなご)をきらびやかに飾る。
表紙から見返しにかけて花開く蓮池。その辺(ほとり)に僧俗男女(なんにょ)が輪座(りんざ)する。
下方に「加」・「奈」の字様は葦手(あしで)か。
だが、一連して詠めない。
冠直衣(かんむりのうし)の貴公子、尼削(あまそ)ぎに掛帯(かけおび)(物忌(ものいみ)・仏事に肩にかける赤い紐)の若い女。
さながら「源氏物語絵巻」(徳川・五島美術館蔵。十二世紀末)の世界。信仰と大和絵(やまとえ)の結合に、貴族生活の耽美牲(たんびせい)をうかがう。

分別功徳品

分別功徳品


寿量品(じゅりょうほん)

『法華経』の中には七つの譬喩譚(ひゆたん)(たとえ話)がある。これはその一つ。「良医の譬喩」で、ある事実を仮定して、それに基づき教えを説く形式をとる。良医が国外旅行した間に、子供が毒薬を飲んだ。帰って来た父が良薬を与えたが、本心を失った子は服用しない。父はふたたび旅に出て、「父は死んだ」と伝えさせる。悲しみの中に本心を戻した子が、父の残した薬を飲み毒は消えた。その時、父が帰国したという説話。薬の効能(くのう)を天女(てんにょ)の慈悲にもまがえたのか。図様(ずよう)の説明ができない。しかし、この説話(せつわ)以外に、この品(ほん)の絵画化の場面はないのだが。

寿量品

寿量品


涌出品(ゆじゅつほん)

この品は「大地(だいち)の割れ目から涌(わ)き出た無量(むりょう)百千万億(おく)の菩薩(ぼさつ)は、仏(ほとけ)が過去において教化(きょうけ)した」と説く。この品(ほん)の見返し絵としては、むしろ「妙音品」の画がその経意(きょうい)にふさわしく、伝来途次に錯簡(さっかん)(入れ替わる)したか、と考えられていた。が、それは小さな阿弥陀仏であるので、かならずしもそうとは言えない。この絵は普賢十羅刹女(ふげんじゅうらせつにょ)(『法華経』を守護する普賢菩薩に従う十人の鬼女(きじょ))の「黒歯(こくし)」に仮託(かたく)して王朝女性の姿に描かれる。十羅刹女が『法華経』の受持者(じゅじしゃ)(信者)を護(まも)ると説かれるところから、ことに女性の讃嘆(さんだん)信仰の反映を物語る。
鎌倉時代(十三世紀)に普賢十羅刹女仏画の流行の先例を示す。

涌出品

涌出品


安楽行品(あんらくぎょうほん)

まず、表紙。勇壮な獅子吼(ししく)(獅子がほえる)の姿を描く。上方に「遊行(ゆぎょう)・「無畏(むい)」・「如師子(ししのごとく)」の金泥(きんでい)文字が点在する。 経文(きょうもん)を追うと、「遊行するに畏(おそ)れ無(な)きこと、獅子王(ししおう)(獅子の生態を「王」に擬す)の如く、知恵の光明は日の照らすが如くならん」と見える。その絵画化と知る。
見返しは、大蓮華座の上に梵字(ぼんじ)(バク=釈迦如来)を奉安。 玉幡(ぎょくばん)と華鬘(けまん)を奉懸(ほうけん)する。
この一巻は、全巻の表裏くまなく金銀の切箔(きりはく)・砂子(すなご)でまばゆく荘厳(しょうごん)(美しくかざる)する。 本紙の上下欄(らん)には飛天(ひてん)(天女(てんにょ))や孔雀(くじゃく)を摺(す)り出す(版木の空摺(からず)り)。
技巧を尽くしての経飾(きょうかぎ)りは、華麗(かれい)を極める。

安楽行品

安楽行品


勧持品(かんじほん)

表紙は金箔地(きんぱくじ)の上に、宝相華唐草(ほうそうげからくさ)の文様(もんよう)をダイナミックに描く。インドに発した花文様(はなもんよう)が、西域(さいいき)から中国を経てわが国に伝わったもの。
見返し絵は、大和絵(やまとえ)の美しい画面。庵室(あんしつ)の中に、高貴な尼僧(にそう)と尼削(あまそ)ぎ(肩のあたりで髪を切りそろえる)の若い女が仏前に対座する。経句(きょうく)に「その時、仏(ほとけ)の姥母(おば)、摩訶波闍波提比丘尼(まかはじゃはだいびくに)(釈迦の叔母=尼)と・・・(若い女)倶(とも)に座より起ちて、一心に合掌し、尊顔(仏の顔)を瞻(みまもり)仰(あお)いで、目は暫くも捨てざる(凝視(ぎょうし)する)なり」とある部分を描く。本紙の上下欄や裏面に朝顔・竜胆(りんどう)や鳥・蝶の装飾画を散らす。金・緑・青のコントラストが美しい。

勧持品

勧持品


提婆品(だいばほん)

提婆達多(だいばだった)は釈迦の従弟(いとこ)で、悪名が高い。この経はその成仏(じょうぶつ)を説き、さらに龍王の女(むすめ)の変成男子(へんじょうなんし)(女性が男子に変わること)を述べ、『法華経』の功徳(くどく)を宣揚(せんよう)する。表紙と見返し絵が一体となり、「荒海(あらうみ)の怒れるいほ(魚)」(『源氏物語』帚木(ははきぎ))は沙竭羅龍王(しゃからりゅうおう)の龍宮(りゅうぐう)を暗示する。見返し絵は、「その時、龍女(りゅうにょ)に、一つの宝珠(ほうしゅ)あり、価直(あたい)は三千大世界なり。以(も)って仏に上(たてま)つるに、仏は即ちこれを受けたもう」の絵画化。経文は金泥(きんでい)・銀泥(ぎんでい)・群青(ぐんじょう)・緑青(ろくしょう)、四本の筆を順次に操りながらの丹精の書写。
精緻(せいち)をつくした考究の結果、清盛の異母弟(いぼてい)(母は池禅尼(いけのぜんに))の修理大夫(しゅりだいぶ)頼盛(34歳)の筆と断定する。

提婆品

提婆品


宝塔品(ほうとうほん)

正しくは「見宝塔品(けんほうとうほん)」で、「宝塔を見る」の意。原語は「宝塔の出現」、仏陀(ぶつだ)(釈迦)の復活を説く。表紙・見返しともに装飾図案。
ことに表紙は銀地に花弁(かべん)を四つに集めた※文様(かもんよう)を、群青(ぐんじょう)(ラピスラズリの粉末)で描く。もとは、中国・唐代の官吏の衣服(いふく)の官用文様であったという。その上に紗(しゃ)(生糸(きいと)のからみ織り)を張って、透(す)けた美的効果をねらう。が、いまは伝世の間に朽損して、ほとんど失せている。見返しは、同じく銀地に大きな小花唐草文様(こはなからくさもんよう)がのびやかに描かれる。
宝塔にちなみ、一行十七字詰の経句を一塔に見立てているのが珍しい。
裏面の華麗な装飾も抜群。
※穴冠に果


法師品(ほっしほん)

経の中に「この経巻(法華経)を敬(うやま)い視(み)ること仏(ほとけ)の如くにして、種種(しゅじゅ)に華(か)・香(こう)・瓔珞(ようらく)・抹香(まっこう)・塗香(ずこう)・焼香(しょうこう)・蓋(がい)・幢幡(どうばん)・衣服(えぶく)・伎楽(ぎがく)を供養し、乃至(ないし)、合掌して恭敬(きょうけい)せば」とある。これを十種(じっしゅ)供養という。
見返しは、幡・蓋、それに笛・鞨鼓(かっこ)・磬(けい)を図示して「幢幡」・「伎楽」を代表させて、十種供養の絵画化である。続く経文(きょうもん)の上欄に琵琶(びわ)・筝(こと)・振鼓(ふりつづみ)などいろいろの楽器、下欄には紅葉や四季の花々・蝶・鳥を描く。十種供養の具現(ぐげん)に、極楽を観想(かんそう)する。経文は、結縁者が助筆を乞うた、当代随一の能書の手になる。

法師品

法師品


人記品(にんきほん)

表紙は花菱亀甲(はなびしきっこう)の文様。金・緑・青のコントラストが美しい。王朝(おうちょう)図案文化の華(はな)。
見返しは、まばゆいばかりの金の大・中・小さまざまの切箔(きりはく)を撒(ま)く。蓮池(はすいけ)を描いて極楽浄土になぞらえる。
本文(ほんもん)の界(かい)(罫(けい))の天地も、同じく金銀のきらびやかな装飾。上方に領巾(ひれ)(スカーフ)を巻いた、さまざまな楽器が浮游(ふゆう)する。天人(てんにん)の虚空楽(こくうがく)か。五色(ごしき)の散蓮華(ちりれんげ)は、花降る極楽の象徴。
この一巻、総じて仏の安楽世界の現出。結縁者の成仏(じょうぶつ)悲願の思いか。金銅(こんどう)の題簽(だいせん)(経名)の「※」(人)の異体字(いたいじ)が珍しい。

人記品

人記品


五百弟子品(ごひゃくでしほん)

この巻は、富楼耶(ふるな)(弁言さわやかで釈迦から説法第一と褒められた)をはじめ、五百人の阿羅漢(あらかん)(最高の悟りを得た者)に、将来、仏になると予言を与えたことを説く。
見返しは、巻末経句の中の「衣殊(えしゅ)の譬喩(ひゆ)」を絵画化するある男が友人の家に行き、酔いつぶれている間に、友人は男の着衣の端に高価な宝玉(ほうぎょく)を縫いこめておく。男はそれに気づかず、永い窮乏(きゆうぼう)の苦労を重ねた。が、最後に友人に会い、はじめてそのことを知る。
三棟(さんむね)の屋内は、時間の経過を連続図様(ずよう)によって巧みに展開。異時同時法(いじどうじほう)の描写。経文(きょうもん)は能筆の経師(きょうし)の手。


化城喩品(けじょうゆほん)

この表紙は安芸・備後国を領した左近衛権少将福島正則(まさのり)(42歳)が、慶長七年<1602>5月、「平家納経」を納めるべく蔦蒔絵唐櫃(つたまきえからびつ)を寄進した時に補修して、取り替えたもの。表紙は松並木に梅花を点じ、見返し絵は、海中に浮かぶ三つの鳥形(しまがた)を配す。当時としては卓抜(たくばつ)した異様の画風。
美術史学界はこれを俵屋宗達(たわらやそうたつ)(桃山〜江戸初期の絵師)の絵筆と推定する。金・銀泥を駆使するのが特技で、これを宗達の基準作例に置く。
経文は宮内大輔(くないたいふ)藤原定信(さだのぶ)(1088-1154)の書風の影響がみえる。
右肩上がりの速い運筆で、後世、写経書風に「片上様(かたあがりよう)」として流行した。「方便品」・「普門品」が同筆。定信の子・伊行(これゆき)の筆に擬(ぎ)するが異筆。筆者は不明。


授記品(じゅきほん)

「授記」(じゅき)とは「予言」の意味である。声聞(しょうもん)(教えを聴聞する者=釈迦の弟子)でも未来において仏(ほとけ)に成り得ると予言を授ける。『法華経』の特色の一つでもある。四大声聞(四人の偉大な仏弟子)の筆頭である摩訶迦葉(まかかしょう)は光徳国において光明如来と名付けられる、というように。この表紙・見返しは、ともに同じ意匠(いしょう)(モチーフ)につくる。
波の中に洲浜形(すはまがた)(島)が浮かぶ。表紙は紫色の染紙(そめがみ)にすべて金泥(きんでい)、見返しは銀泥地に胡粉(ごふん)(自絵の具)で波の文様(もんよう)を描く。洲浜、に金泥の隈(くま)を入れて立体感を出す。あまねく仏国士(ぶっこくど)を表わす。王朝の高雅を美意識をまざまざとうかがう。


薬草喩品(やくそうゆほん)

この表紙・見返しは、当初は緑地綾(みどりじあや)の芯(しん)の上に、菱文様(ひしもんよう)の同色の羅(ら)(うすぎぬ)を被せた典雅(てんが)の装丁(そうてい)であった。明治三十三年〈1900)に朽損のため蜀江錦(しょっこうにしき)(厚手の二つ折り)の裂に取り替えた。が、昭和大修理(昭和三十一〜三十三年度)に新たに日本画家安田靫彦(ゆきひこ)(1884-1978・文化勲章受賞)の制作により新装された。この見返し絵は、菩提樹林(ぼだいじゅりん)に瞑想(めいそう)する釈迦如来で、勁快(けいかい)な描線、華麗(かれい)な彩色(さいしき)と相俟(あいま)って、画伯の真面目を発揮する名画。
経文(きょうもん)の本紙(ほんし)は、紫色の隈暈(くまぼか)し地に、金泥(きんでい)で書写する。結縁(けちえん)の人が自筆により祈りを籠(こ)めたものであろう。


信解品(しんげほん)

見返し一面に銀泥(ぎんでい)を塗抹(とまつ)して、波文(なみもん)の形木(かたぎ)(版木)で空摺文様(からずりもんよう)を表わす。蓮池(はすいけ)を描くこの図様(ずよう)は、「無量義経」と全く同一。同じ絵師が描いたものである。
表紙は紫色(紫草(むらさきくさ)の根を煮沸した液で染める)の下地(したじ)の上に金泥で蓮唐草(はすからくさ)文様を精緻(せいち)に描く。図様(ずよう)としても高度の技術を発揮した非凡の装飾図様である。表紙と見返し絵を合わせて蓮華(れんげ)に統一して、極楽浄土の讃嘆(さんだん)を具象化(ぐしょうか)する。
経文の書風は細味の優雅な筆致で、上代(じょうだい)様(よう)(王朝書風)の妙技を発揮する。当代、能書の公卿の手である。

信解品

信解品


譬喩品(ひゆほん)

見返し絵は、異国情緒(じょうちょ)に描く唐絵(からえ)の手法。肉太(にくぶと)の墨線を駆使(くし)する闊達(かったつ)な描写である。が、根元(こんげん)は大和絵。
表紙とこの見返し絵は、表裏一体。経文(きょうもん)に 説く「三車(さんしゃ)の火宅(かたく)」の説話(せつわ)を描く。
火がついて燃えさかる家(火宅)の中で、知らずに遊ぶ子供を、羊車・鹿車・牛車を与えるからと屋外(おくがい)に誘い出す。
火宅は迷いの人間界(にんげんかい)で、子供はそれぞれ悟りを求めようとする。
車は三乗(さんじょう)(悟りに至る三つの方法)の教え。図は、屋外(おくがい)に逃れた二人が羊車を振り返る。経文は、謹厳な経師の筆。

譬喩品

譬喩品


方便品(ほうべんほん)

見返し絵は、葦(あし)の生い茂る水辺(すいへん)。ところどころの岩は「加」の字。上方に一枚の板。その両端に不思議な穴が見える。下段のあたり、洲浜形(すはまがた)にかたどり、「め」の字様(じよう)がある。これは、「盲亀浮木」(もうきふぼく)の仏教説話の絵画化。「加」と「め」を合した「かめ」(亀)は 盲(めしい)の亀。
板と見るのは浮木(うきぎ)である。大海の中、眼の見えない亀が百年に一度だけ水面に浮かび上がり、漂(ただよ)う浮木の一つの穴に入ろうとする。が、なかなか入れない。つまり、仏や仏の教えにはなかなか巡り会えないことの譬(たと)え。『涅槃(ねはん)経』や『法華経』の「厳王品(ごんのうほん)第二十七」にその経句が見える。

方便品

方便品


序品(じょほん)

見返し絵は、僧房(そうぼう)の斜め上に視座(しざ)を据えて、室内を俯瞰(ふかん)する大和絵(やまとえ)特有の画法で、「吹抜(ふきぬき)屋台(やたい)」と称する。
庭先の石や花影(はなかげ)に文字が点在する。これは、経句の「彼の諸(もろもろ)の比丘(びく)(僧)・比丘尼(びくに)(尼)・優婆塞(うばそく)(公卿)・優婆夷(うばい)(女房)の、諸(もろもろ)の修行によりて道を得る者を見(みる)」を絵画化する。画面左上(西方(さいほう)浄土(じょうど))から光明が照射するのは、各人が修行により「道(さとり)を得る」という仏の功徳(くどく)を暗示する。
経文は、地紙(じがみ)の色彩装飾の効果を考えながら、群青(ぐんしょう)(青色)・緑青(ろくしょう)(緑色)・金泥(きんでい)の三本の筆を巧みに使い分けて書写する。結縁分担の人の入魂(にゅうこん)の自筆。

序品

序品


無量義経(むりょうぎきょう)

『法華経』(八巻)を本経(ほんきょう)とした場合の開経。はじめに序説として説く。
見返し絵は、銀地(ぎんじ)の上に、水面に咲き出た蓮の花。花びらは截金(きりかね)(金箔を細く切り刻む)で脈を描く。仏教では仏・菩薩の座を蓮華として、泥中に染まらない清浄を尊ぶ。二花は、あたかも阿弥陀仏来迎(らいごう)の二菩薩(観音・勢至(せいし))にまがえて、結縁(けちえん)者の成仏(じょうぶつ)安座を欣求(ごんぐ)するものか。
経文は極端に右肩上がりの癖の強い書風である。
当時の整斉な経師(きょうし)の書と異なる。結縁者の自筆と思われる。

無量義経

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